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Apollonia Paper Model Museum  
 
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アポロサターンを打ち上げた発射基地は、「ランチ・コンプレックス」の名の通りに極めて複雑な構造物だった。
正式な呼称は、「LAUNCH COMPLEX 39」といい、サターンロケット組立の巨大な家屋、2つの発射台エリア(39Aと39B)、その付随施設、それらを結ぶラインが含まれる。

なので未だに構造がチョットよく判らない部分が多々タタあって、それが常々に、顧みるようにして興味をなくせないトコロでもあって、2012年も末になってやっと、その一面を垣間見る写真が公表されたりもして…、
「ほほ~」
てな、感心に紅い炎を点火されるんだな。

写真:TVC-15 Apollonia Paper-Modelの模型の一部
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今回、写真でもって公表されたのは緊急時にアポロ搭乗員を発射台から避難して隔離させる"装置"。
紹介してくれたのは、SPACEFLIGHT NOWという米国の宇宙関連グッズを販売するホームページ。


写真: Walter Scriptunas II/Spaceflight Now

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実はこの”装置”、秘密でもなんでもない。
アポロ計画のかなり初めの内に備えられ、当初から公表もされているのだけど、前記の通り、「ランチ・コンプレックス」… 壮大にして巨大な"複合体"ゆえ、部分として今の今まで、あまり着目されなかったんだ。

左図の3番が、この"装置"の概要。
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発射台が企画され建造された頃には、既に概要図面も一般に公開されていて、この"装置"の終端部分には『Rubber Room』の名が記されてた。
"ゴムのお部屋"だ。

もっとも、これら避難のための施設というのは、やはり、感情的には"アポロの発射は危険だ"の印象が濃くなる。
そうでなくとも、当時、アポロ1号の忌まわしい記憶が米国中に生々しくある。
アポロ計画そのものを中止せよ、との声もけっこうあったのだ…。
NASAの広報としても、その辺りの空気にこれら施設の存在を広く晒したくも… なかったのだろう。

アポロの乗員3名が打ち上げ直前のビッグトラブルでの避難に関しては、発射塔上階からカゴに乗ってケーブルを使って滑空。およそ850m先に待機した装甲車に乗り込むという形が1番に知られてる。
アポロ計画ではどのミッションにおいても、この脱出訓練は行われているのだけど、アンガイ、写真がない。

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large product photo 左の写真:(ペーパーモデルで見る脱出装置の部分 。

前記の通り、詳細な資料となる写真が非常に少ない。ミッションを重ねていくと共にこの部分は徐々に改良されてもいるのだが…。
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前記のような空気が、写真撮影を含む広報活動を抑制していたのだろう。
ここで紹介するのは、その数少ない写真。
アポロ10号における訓練の様子を映したもの。
というよりも、何か印象として、"参考までに"的な見学っぽい写真になっている点もご注目。
公表する以上は、「ダイジョウブですから」の印象を持たせようとしたに違いない。



30階建てのビルの屋上から一挙に地上に向けて、ケーブル1本を頼りにしての降下の様子は、TVドラマ「From The Earth To The Moon」の第3話でかなり詳しく描写されているから、ご覧になるとよい。この回はアポロ7号が物語ゆえ、サターンロケットは一回り小さいSaturn IBで発射台もComplex 34なので、その後のアポロシリーズとは様相が違うけども、いささか、尻込みするような、勇気を要する降下だ。

左は、アポロ10号での"カゴ式"の脱出装置。
「大丈夫かいや、これ…」と見上げているのはアポロ10号のスタッフォード船長。
苦笑めいた笑顔はジョン・ヤング飛行士。
あんまりコレには乗りたくないな〜、という感じの表情がおかしい。



写真:NASA
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320'LEVEL通路は飛行士がアポロ司令船に向かう通路でもあるが、ご覧の通り、この面での通路は傾斜している。
重い宇宙服を着た3飛行士の歩行の配慮と云われる。
心理学的にこの下る傾斜が宇宙の高みに登っていく飛行士達を落ち着かせる役割をはたすとの説。
万が一の緊急脱出のさいには、逆に登っていくワケゆえ身体への付加はあるけども、心理的作用としては、この登りの方が慌てての転倒の抑止になるとのこと。
一方で、設計上、やむなく、このように傾斜せざるを得なかったとの説もある。
いずれが正しいか、不明。
されど、おそらくは前者ではないのかと… と、筆者は確信的に想像する。アポロ計画では肉体的・心理的双方がらみで医療チームが初期段階からかなり意見力を持っていた。映画「アポロ13号」でもそのように描かれ、事実として微細な理由でもって飛行士の変更があったワケで……。


識別として、この面はサイド3の呼称がある。
この傾斜面を降りると直角に右折。まっすぐに進めば、通称"ホワイトルーム"の、アーム通路(No9-クルーアクセスアーム)と一体となった司令船搭乗室にいきつく。この面はサイド4と呼ばれる。
ややこしいね…。

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上の模型写真の右の青い場所にケーブル・カゴがある。
乗って、およそ800mを一気に滑空。

ケーブルの行き着いた先に装甲車が停めてある。
無人。自分達で運転して発射台から離れる。
これはスペースシャトルの時代も踏襲されてた方式だ。だから向井さん他日本人クルーの皆さんは全員、装甲車を運転出来る。

M113装甲兵員輸送車というキャタピラ駆動車で、1960年代に作られ、今も使われてる。
フォード社が基本を設計。
諸々な戦闘局面に応じての改造が出来、総台数は既に8万台を越えるという。
これはTAMIYAからプラモデルが出てる。
アポロ計画で使われたのは、この改造車輛。あたりまえだが武装はない。脱出のためだけの車輛だ。

写真:安物なSF映画のシーンのようだけど… 90年代のシャトル時代の訓練の様子。

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さて、こちらは… もう1つの脱出装置。
例によって資料写真は少ない。

この写真もアポロ10号での訓練の様子。ゴムのトンネル(チューブ)をやや心配げな表情でみている帽子のない人物は、10号と17号で2度、月に出向いたジーン・サーナン。
10号はむろん、月着陸はしていない。
月面から17Kmの地点まで接近しての、アポロ11号のための予行演習だった。

 

写真: NASA

large product photo 『Rubber Room』は、タワー上階からのケーブルでのダイレクト滑空のほんのちょっと後に立案されて建造された"装置"なのだった。
だから、緊急脱出には2通りの方法があるワケだ。

1. カゴに乗ってケーブルで降り、装甲車で避難。

2. 塔屋の下部までエレベーターで降り、そこから滑り台を降下。
  避難場所の地下に待避


対象者は、搭乗員と打ち上げ直前まで塔の上部にいる少数のクルー。
歩くよりも、駆けるよりも、滑り下りるのがより早い… というマスタープランは同じながら、今回、写真が公表されたのは発射台の地下への、滑り台だ。

写真: Walter Scriptunas II/Spaceflight Now
large product photo 滑り台の距離は概ね200m。

大きく左側に曲がりつつ地階深くに誘われる。大人対応の滑り台としてはこれは世界一の規模ながら、むろん、滑って楽しむ装置じゃない。
重装備な宇宙服を着けたままの乗組員、あるいは整備クルー達がどう転げようと安全なように、この"装置"の主要な全域はゴムで覆われている。

滑り台の終端に大きな円形の部屋があって、そこが『Rubber Room』。


写真: Walter Scriptunas II/Spaceflight Now
large product photo 何やら映画「2001年宇宙の旅」を想起させられるテーストの、ちょっとした豪華ささえ感じられる部屋。
爆発による突風や衝撃にそなえ、大きな椅子にはシートベルトもある。
エアコン装備。
トイレ完備。
炭酸ガス吸収装置(空気清浄機)可動。




写真: Walter Scriptunas II/Spaceflight Now
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何かの不具合でもってロケットが非常に危険な状態になった場合、クルー達は発射塔内にある2機のエレベーターの内、pad elevater No.2に乗る。
これは高速で下降(ものすごく気持ち悪い)して、発射台内のフロアに到着。

発射台フロアは2階建てで、Lebel AとLebel Bに別れてる。
向かうはLebel A。ベースの下側1階部分。
pad elevater No.2のエレベーター乗降口が開くと、クルー達は出て即座に右側に駆けだす。
左側に駆けちゃいけない。そっちはアポロサターン側だ。
この右側壁面にトンネル孔がある。
上部にテスリがあるのでこれを掴み、ブリをつけるようにして穴に身を入れる。


写真は当時のBBCが撮影した訓練の様子(動画よりキャプチャー)。

※ 素早く乗り込むという意味で、この描写は、アポロ計画のさなかに放映されたTVドラマ「謎の円盤UFO」でうまく活用されていたと思う。かのインタセプターへの搭乗でだ。

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で、これがトンネル孔、通路部分。
LEBEL Aは下側。1階部分だ。
ランチャーは移動式ゆえ、こうして、一見はハッチなのだけど、発射台に取り付けられるや、ここに通路がリンクされるワケだ。

次いでに記しておくと… このベース部分上の赤い塔は、LUTと呼ぶ。
ランチ・アンビカル・タワーの略。
サターンロケットが設置される"屋上"部分は、LEBEL 0。
その上、2階に相当するのがLEBEL30。
最上階がLEBEL 360 で、その上にクレーンがある。



写真はTVC-15/Apollonia Paper Modelの模型。

large product photo このように、地階のトンネル(チューブ)滑り台にリンクされる。


ちなみに、写真右側の壁面(サイド2)。フロアB部分にもハッチがあるのが判るかしら…。
ちょっと白っぽく映って、ちょっと開いてる感じの部分。
これは、ECS(環境コントロールシステム)の塔屋に連結されるハッチ。
塔屋は地階に結ばれて、そこに大掛かりな施設があるのだけども、ここでは省く。
large product photo こちらホンモノ。
矢印部分の"出口"が傾斜している様子がわかると思う。

上の模型と番号が違うのは、これは別モノだから。
「移動発射台」は3機あった
「ML-1」、「ML-2」、「ML-3」。
アポロ8号、11号で使われたのが、1号機の「ML-1」。
正式にはモバイル・ランチャー 1

左の写真はアポロ14号で使われた2号機。鉄塔部分の塗り分けも相違アリ。
この「ML-2」は、サターンロケットの最初の無人発射、アポロ12号、14号と、3回使われた。

「ML-1」は後に永久保存の予定でいったん解体され、射場に置かれていたのだけど、なかなか保存のための予算がつかず… そうこうする内に塗料に含まれる鉛などの有害物質が漏出して、保存どこのハナシではなくなった…。
この顛末はコチラ

「ML-2」、「ML-3」は大改造されて背丈も半分になったけども、スペースシャトルのランチャーに変身。
結果としてこの2機が今も健在なり。


写真: NASA
large product photo 通路は地下へと繫がる。
ゴムの滑空トンネル(チューブ)は真っ直ぐじゃなくカーブしてる。
上にあるイラスト参照。

長さは200m。
何だか、「サンダーバード」の秘密基地さながらだけど、これは現実だ。
滑り台の終点が、上記の『Rubber Room』、ゴムのお部屋なワケだ。





写真: NASA
  これはアポロ15号のリフトオフ。炎によって避難トンネル(チューブ)がシルエット  になって見えてる。
  発射塔の上部左側には。カゴでの脱出の場合のケーブルも映ってる。
large product photo 地階の避難部屋(ラバールーム)には、別なドアもある。
地階とはいえ、地上の発射台はアンガイ近い。なので、この場所ですら危険という場合も想定されるから、さらに脱出のための通路が設けられている。
この通路の長さは何と1.2Km。
フロリダの海岸近くに伸びて、そこにはCooling Towerというやや大きな施設がある。ロケット(アポロ及びスペースシャトル)への空気を送り込む装置の一部だ。
この1.2Kmという距離を思うだけで、発射のための装置のデカサが感じられもしよう。
large product photo この海岸近くの出口部分ハッチと思われるのが登場する映画が1本ある。
それが、2012年に公開された「MIB3」だ。
「メン・イン・ブラック」は… 筆者はさほどに好きではないシリーズながら、この第3作ではタイムスリップしちゃって1969年のケープ・カナベラルの、まさにこの発射台が舞台となるから… 困るような、嬉しいような… なのだけども、アンガイ、ちゃんと描かれてるから驚かされる。
large product photo 「MIB3」は全部CGだから、模型でもホンモノでもないけども、アポロ打ち上げの"装置としての巨大さと複雑さ"をチラリと垣間見せてくれるから、やはり… お奨めの映画というコトになろうか。
この映画では、60年代半ばに台頭したポップ・カルチャーの片鱗も見せてくれるから、当時の米国のカタチをよく示し見せてくれて、「ホホ〜」てな感慨もわく 。

今でこそ、東京発信とかいってワールドワイドな感じだけども、60年代末頃は米国の文化事情が伝わってくるのがチョット時間がかかってた…。アンディ・ウォホール達がニューヨークの使われなくなった大型倉庫を借りてそこをファクトリーにするという、いわゆるソーホー文化というヤツが日本に鮮烈なモノとして入ってくるのは、70年代になってからだ。タイムラグが2年か3年ぐらい… あったんだね、当時、文化の根ッコの部分での差異は。
large product photo ともあれ、これまたアンガイな感想をこぼすけども、上記のNASA広報での控えめは置き、安全への配慮がかなり考慮されていた事実には、あらためて感服させられもする。
円形に椅子が配された『Rubber Room』は、全体が傾斜しているそうだ。
滑り台トンネルの急斜でもって速度がついた搭乗員らをうまく受け止めるというか、自然に速度を落として敏速に椅子に座れる配慮なのだそうだ、これは。
見事な想像力。そして、その実施。
アポロ1号における不幸後の配慮ながら、アポロ1号の反省から導かれた1つの大きな成果であったとも思える。
反省を、ただの文章の上でなく、本当のシステムの中に組み入れられる米国の力というものを、これは証しているとも思える。

筆者は無条件で米国を礼賛しないけども、少なくとも、この"装置"には人間を守ろうとする意志が働いている。そのために相当な予算を費やしている。
国の力、実力というのは、たぶん… こういった眼にはあんまり見えない部分にあったりするもんだ、とは思ってる。


写真は射場への固定作業中の「ML-3」。
アポロ10号、15号、16号、17号で使われた。

 

 

 
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